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三重の玉露
三重県産の玉露の問題は全国に波及しそうです。
三重の玉露生産量が2008年に急増した件について、他の有名産地である福岡、京都、静岡等の県が栽培方法について指導を行う必要があると全国茶生産団体連合会に申請しました。
一般に煎茶などの他の緑茶に比べて高級とされる玉露は、生産にも手間暇かけて作られているのが特徴です。
まず、使われる芽も、厳選された上部の新芽2~3枚だけで、採摘されるまで日除けとして藁やヨシズ、あるいは最近では化学繊維を用いた布などを被せ、旨み成分であるテアニンが、日光によって渋味となるカテキンへ変化することを防ぎます。
こうやって独特の上品な甘みとなる旨み成分を20日間ほど保護したあと、丁寧に人の手によって摘まれます。
蒸して荒茶加工を施された後、消費者の手元に届いてからも、甘みを上手く抽出するため、沸かしたお湯を60度以下まで一度冷まして煎じる必要があるなど、玉露は、手間暇かけて作り出される高級感が売りでした。
三重県が急激に生産量を伸ばす前まで、有名な産地であったところでは、この手間暇かけた製造法に誇りを持っており、生産量を限定してでも、伝統本玉露と名付けたブランドの保守を心懸けてきました。
棚を設置し、屋根や囲いを作って丁寧に日除け処置をされるこれらと違い、三重県の玉露は、簡易的に上から布を被せただけの茶葉でできています。
これは、今までの伝統的な手法を守ってきた産地が、もっと簡易的に玉露の風味を楽しめるようにと生産しているかぶせ茶によく似ています。
かぶせ茶は棚などを設置せずシートを直接芽の上にかぶせて、少し短い7日ほど置いてから採摘されます。
三重県の主張では、他の産地でもこのような栽培方法で作られた玉露が存在するので、それを手本にしたまでだと言います。
この緩和された解釈により、三重県の玉露生産量は爆発的に増えて、前年2007年の3トンから44倍の132トンになりました。
従来の伝統的な製法で作られる福岡の八女茶は、100グラム当たり1500円~3000円で取引されるのが一般的です。
一方三重県の玉露は、100グラムあたり200円ほどなので、その差は歴然、むしろ煎茶よりも安いぐらいなのです。
昔ながらの伝統農家が、この三重の玉露に関わる異常な数字の変化に気付き、手軽に作れ、あくまで廉価版であるべきだったかぶせ茶で、玉露の高級なブランド名を利用しようとしていると主張するのも、無理はないことと言えるでしょう。
しかし、この問題は遅かれ早かれどこかで起こったことかもしれません。
日本食離れが進み、日本茶の消費量も年々減少しているところでは、容赦なく市場原理が襲いかかり、淘汰される緑茶のブランド、職を失う茶農家も珍しくありません。
茶農家が生き残るには、大量生産による値下げと徹底的なコストダウン、あるいは付加価値を付けた商品を放ち、ブランド力に頼る他ないのが実情です。
そして何より、お茶の世界では茶のブランドにかかる厳密な条件がなく、付けいる隙はいくらでもあるのが問題です。
例えば、阿波番茶にも同じような傾向が見られます。
碁石茶というお茶がメディアで騒がれて久しいのですが、阿波番茶も比較的良く似た生産工程をもつ後発酵茶です。
阿波番茶も碁石茶も、本来地域に根付いて生まれたお茶で、茶葉は地元の険しい山肌に自生する茶から採摘されたものを使います。
しかし、最近メディアに紹介され全国的な取引が始まると、品種改良された扱いやすいやぶきたを利用する農家も増えました。
これが、市場原理にのっとって行われた農家の工夫か、それとも伝統あるブランドの失墜と取られるべきかは、意見が分かれるところです。
阿波番茶も、碁石茶も、特徴を述べることはできても、定義できる細かい条件はないのです。
三重県の玉露は、まさにこの緑茶ブランドに関わる問題に大きくスポットライトを浴びせる問題となりました。
商品のブランド条件が揃わず、農家が各々己の解釈で商品を作るようでは、消費者からの大きな信頼の失墜を招き、やがては業界全体の後退に繋がるのは間違いありません。
現在、全国茶生産団体連合会は、基準を統一すべく農家の意見を聞く体勢に入っています。
一方農水省は、生産地の判断に任せるべきだと静観の姿勢を崩していません。
日本の文化に深く根付いてきた緑茶ブランドが、これからどのように変化していくのか、注目を集めるところです。